活動初期から主に静物画に取り組んだ山田は、東京で3度
の空爆を経験し、敗戦後の空虚感の中で、自覚的に死を
暗示する静物を主題に選んだ作品群「Still Life」シリ
ーズを制作します。
そこに描かれた瓶や器、果物といった対象物は山田の記
憶の中で再構成され、徐々に解体、抽象化されていきます。
やがて、描かれた対象物の再現的な要素は排除され、絵画
全体の単一性へと向かい、平面化を強めていった結果、
周囲の空間との溶け合いがピークを迎えた1955にこのシ
リーズは終わりを迎え、翌年から「Work」シリーズへと
移行していきます。
1995年まで40年間続いた「Work」シリーズの初期の作品は
、アラベスク形式の入り組んだ構造をとっていましたが
、1958年頃からはストライプやクロス、グリッドで構成
された形態へと変化していきます。
山田作品で多くみられる色彩のストライプは山田が1949
〜1972にわたって書き残した、56冊、計2000ページ以上に
わたる制作ノート内で、「全色彩」、「色彩の等価性」、「全体
性」という言葉で記している概念を具体化した表現です。
色彩の線はその個々の存在を主張するよりは寧ろ、相互
の本質的な均しさへと向かい、画面に対して平行に、繰り
返し描かれることによって、絵画全体としての表現効果
を高めています。
当初は多色で描かれていたストライプが、1965年頃には
2、3色に集約されていくのも、ミニマリズムへの移行と
してではなく、山田の志向する絵画表現の概念が作品と
してその強度を増した結果であるとみることができます。
1978に東京・銀座の廉画廊で、それまでの20年間の作品
を3期に分けて、48点展示したことを契機に作品への評価
は大きく変わり、以後毎年のように個展を開催していき
ます。
そして、同じ「Work」シリーズでも画面は大型化し、以前よ
り曖昧になったグリッドの枠組み内には、自由な筆触に
よる生き生きとした表現がみられるようになります。
1995年にこの「Work」シリーズに終止符を打った山田は、
1997年からはキャンバスを単色で覆うように描きながら
も、画面周縁部分には下層に塗られた別の色彩が覗き、
平面でありながら画面の重層性を示した「Color」シリー
ズへと移行しました。
生前の2005年には府中市美術館で1964年までの初期作品
を含んだ個展「山田正亮の絵画−〈静物〉から〈Work〉
・・・そして〈Color〉へ」、没後6年を経た2016には油彩
画約200点、紙作品約30点と制作ノートを展示した初の回
顧展が東京国立近代美術館と京都国立近代美術館で開催
されるなど、再評価の試みがなされています。
山田正亮は1929年東京生まれ(2010没)。
東京府立工業高等専門学校を卒業。
1949年2月の第1回日本アンデパンダン展に出品。
1950から自由美術家協会展へ参加し、1953より長谷川三郎
に師事。
1958年11月に教文館画廊(東京)で初めての個展を開催。
1948から静物画を主題とした「Still Life」シリーズを
描きはじめ、その対象は徐々に抽象化され、1956年から
「Work」シリーズを制作。
以後40年間描き続けられ、山田作品の根幹をなすこのシ
リーズは、作品タイトルに、1950年代ではWork B、1960
年代ではWork Cというように年代を表すアルファベット
と通し番号が機械的にふられており、1990年代のWork F
まで続いた。
1978年9月に廉画廊(東京)で開催した個展で高い評価を
受け、80年代に入ると60年代のストライプの絵画作品への
評価も高まり、1981には「1960年代-現代美術の転換期」展
(東京国立近代美術館、京都国立近代美術館)、1987に
は東野芳明がコミッショナーを務めた第19回サンパウロ
・ビエンナーレへ参加。
1997からは平面でありながら色相の重層性を描いた「Color」
シリーズを制作。
主な個展に「endless山田正亮の絵画」東京国立近代美術館
、京都国立近代美術館(2016年)
「山田正亮の絵画−〈静物〉から〈Work〉・・・そして
〈Color〉へ」府中市美術館(東京、2005年)
主なグループ展に「日本美術の20世紀美術が語るこの100年」
東京都現代美術館(2000年)
「Japanese Art After 1945: Scream Against the Sky」
横浜美術館、グッゲンハイム美術館、サンフランシスコ近
代美術館、イエルバ・ブエナ芸術センター(1994年)
作品は東京国立近代美術館、国立国際美術館、京都国立近
代美術館、千葉市美術館、横浜美術館、広島市現代美術館
などに収蔵されている。
山田正亮年譜
1930 東京生まれ
1953 長谷川三郎に師事
在学中より モランディ、セザンヌに関心を
持ち静物画を制作
1957 この頃より絵画の平面性を強くうちだし、
方形の画面にアルバース風の作品を描いた
その後30年に渡り段階を踏みながら、単一な
平面 としての絵画から、生成の場としての
多様な表面の絵画に移行19
2010 7月18日死去。享年81歳
絵画様式の変遷
1948〜55 具象から再構成へ Still life
1956〜57 アラベスク絵画
1957〜58 方形の面の繰り返しの絵画
1959〜54 色彩分割としてのストライプの絵画
1965〜67 方形の面の並列の絵画
1968〜73 2色のストライプの繰り返しの絵画
1973〜78 方形の面の交差による絵画
1977〜97 方形の面の交差にストロークの絵画
1997〜 Color
作品名記号表記
Still life 1948〜55
WORK−B 1956〜59
WORK−C 1960〜69
WORK−D 1970〜79
WORK−E 1980〜89
WORK−F 1990〜97
Color 1997〜
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